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前回の三兄弟のやつの続きです。
そしてまだ続きます(着地点を見失ったなど……
そしてまだ続きます(着地点を見失ったなど……
梅が香に むかしを問へば 春の月 こたへぬ陰ぞ 袖にうつれる
咄嗟に口を突いて出たのは新古今の家隆の歌であった。
兄は其の歌を聞いた後、宙に漂い回る煙を目を細めて見詰めた。
白い煙は小さな渦を描きながら上昇して行き、天井を這う。
兄は暫く静止していたかと思うと、突然大きく息を吐き出した。
それから、殆ど燃えて居ない煙草を灰受皿に捨てて、新しいのを取り出し、また火を点けた。
「お前は自分で詠むことは出来無いのか」
兄は顔をしかめ、眉を掻き乍ら言った。苛立った様子だった。
「すいません」
私は若しや、先程の歌が兄への皮肉として捉えられてしまったのでは、と懼れた。部屋の中がどんどんと煙たくな
って行く。兄は矢張りその空気を不味そうなをして吸って居た。
「お待たせしました」
彼が帰って来た。手に持った盆の上には洋風の茶道具が乗せられて居る。
「ああ、すまないね」
兄が何も言わないので、私が彼にそう言った。私の言葉に、彼もまた何も答えなかった。
彼が洋杯に紅い茶をゆっくりと注ぐ。湯気が立ち上る。
兄は再び大きく息を吐き出し、火を点けたばかりの巻煙草を灰の皿に押し付けた。
私はあの家隆の歌を詠んでしまったことを悔い、それと同時に、兄の『梅の香』が気になって仕方が無かった。
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