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螺旋を描いて舞い上がる、白、桃色、青い僕ら。
開いた第一ボタン。
胸元に響きわたる、笑い声。
握り締めた番号。
近くなった、明日。
マフラーから白い湯気。
遠くなった、今まで。
はじけた赤い実。
「永遠」はないけれど、「死ぬまで」はある。
冷え切った体育館。
パイプ椅子におかれた、さよならの言葉。
苦味に慣れてしまったとき。
君と僕は、きっとここで会える。
歌を、うたおう。
そう、
こんな顔で、ずっと笑えたのなら。
青い空へ、
青い僕らへ、
そう、
僕らは、きらめいていた。
冬だ。
ガタン、ゴトン、
整然と並ぶおじ様たちの黒い足。
ユラ、ユラ、
不安定に人を支える、まるまるさんかく。
女子高生のエイリアンの首の視線。
みっつの目は私を俯瞰しているよう。
そのガサガサした視線を蹴り飛ばして、ホームに降り立った。
一番ガサついているのは私だというのに。
肌、唇、瞳。
全てが乾いている。
冷えた風が顔に叩きつけられる。
じんじんと。
手足の感覚は失われてゆく。
ガサリ、
赤く冷たい指先で触れた唇は、
枯れ葉みたいな音をたてた。
指に出来たひび割れは、
赤く、赤く、
滲んで
痛い。
テレビを見ていた。
画面のなかでは下着姿の中年の男がなんとも奇妙な踊りを披露している。
なぜ下着姿になろうと思ったのか。
なぜ踊ろうと思ったのか。
なぜ男の奥にいるたくさんの人間たちはそれを見て笑っているのか。
――分からなかった。
ただ、刺したかった。
針で、刺したかった。
その男の膨らんだ丸い腹にぷつり、と細い針を刺してみたくなった。
針が、皮膚を貫く。
空気が抜け、腹がどんどん萎んでゆく。男の身体は腹から噴出される空気の勢いによって空をくるくると回って上昇する。
そして、空気が抜け終わるとその身体は一旦空中で静止した後、地面へ急降下、叩きつけられるのだ。
ぐしゃり、とトマトのように潰れるのか。
砂袋のようにどしゃり、と無機質に着地するのか。
それともゴム鞠のようにぽおおん、と跳ね上がるのか。
――分からなかった。
だが、楽しみである。
どんな着地の仕方なのか、至極楽しみである。
裁縫箱から針を取り出したところで、画面のなかの人間を刺すのは不可能だということに私は気がついた。
起きる。
スウィングジャズが流れる店内でどのくらいの間、寝ていたのか。
それを確かめるスベを私は、持っていない。
私の腕時計はいま、反時計回りに時を刻んでいる。
冷めてしまったコーヒーをのぞく。
泥水みたいなその水は、麻薬のように私を呼んでいた。
ひとくち。
口の中に流し込む。
一瞬、満たされる感覚がした。一瞬。
やっぱりこの苦い水は、麻薬なのかもしれない。
壊れた時計は、ぐるぐると狂ったように。左回りをくるくると。
そのうちネジがはずれてしまうかもしれない。(……あれ?ネジを緩めるのは反時計回りで良いのだっけ?)
泥水をまたひとくち飲む。
茶色い水面ではどこかで見たことのある人が揺れていた。
はて。
この人は何番目の男の人だったか。
思い出せない。
麻薬が、頭を侵食しているのだ。だから、思い出せないのだ。
ゆるゆると、私の頭は収縮する。
くるくると、時計は過去へと旅行する。
ゆらりゆらりと、泥水が全てを汚した。