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というか、この2年間で書いた、ボツ短編(未完)をここにのせてお茶を濁そうっていう魂胆です!
で、なんか気になったのとかあったらぜひ感想ください。今後の方針に役立てます。
まず今回のせるのはファイル名が「紅花」ってなっていました。でも紅花が出てくる前に力尽きてます。
時代ものです。昭和とか大正とか明治とか、なんかそんぐらいな感じのイメージだと思います。
「なんかそういう時代の話って、いいよね!」って感じのノリで書き始めたんだと思います。
そしてそこはかとなく香る、BL臭。
長いです!
で、なんか気になったのとかあったらぜひ感想ください。今後の方針に役立てます。
まず今回のせるのはファイル名が「紅花」ってなっていました。でも紅花が出てくる前に力尽きてます。
時代ものです。昭和とか大正とか明治とか、なんかそんぐらいな感じのイメージだと思います。
「なんかそういう時代の話って、いいよね!」って感じのノリで書き始めたんだと思います。
そしてそこはかとなく香る、BL臭。
長いです!
それは、霙が音をたてて降る、寒い日だった。
その日まで、いや、今日に至るまで私は彼が本を読んでいるのも、彼の部屋に本があるのも見たことがなかった。一度、居間に週刊文春があったのを見かけ、彼に問うたことがあったが「それは細君のものだ」と一言言っただけだった。
だから、そのときまでずっと、私は彼は本を読まないものだと思っていたのだ。
そんな折、私はなんとは無しに、ある小説の一節をもじって、彼が気付かないであろう冗談を言った。
するとどうだろう、彼はその作者の名を呟き、さらには「あれは良い作品だった」と言ったのだ。
「君、本を読むのかい」
私の驚きは大きなものだった。
「ほう。何故」
「だって、君、今まで僕の前で本を読んだことなどないじゃないか。しかも部屋にだって」
そう言いながら私は彼の部屋を見回した。
「この通り。一冊も見当たらない」
そんな私を、彼はもの珍しそうに見ながら、顎に生えた無精髭をさすっていた。私はその様子に、憤りさえ感じた。
「どうして隠していたんだ」
私がそう言えば、彼はかっかっ、と笑い声をあげ、
「別に隠していたわけじゃない。ただ、人前で本を読むのが好かない、それだけのことだ」
「では、なんで部屋にも本が無いんだ」
私は食い下がった。
「無いんじゃない、仕舞ってあるのさ」
そう言うと彼は徐に立ち上がり、そして、部屋の隅の小さな桐箪笥の前に膝をついた。
「ほれ」
彼が開けた引出しを覗けば、其の中には沢山の本がどっさりと平積みにされていた。
「一体なんでこんなところに仕舞ってあるんだい」
「日に焼けるのが嫌だからだ」
彼はそう言いながら、また元の火鉢の前に腰を据えた。私も同じように火鉢に寄り添う。全身の力がへなへなと抜け、気力まで萎えてしまった。
「どうした。そんなに疲労困憊する程、驚いたのか」
彼はまた面白そうに笑った。
「違うよ。断じて違う」
「ほう」
「今までの時間が、惜しいんだ」
「ほう」
彼が、この「ほう」を使うのは、相手に話を続けろと暗に言っているときだ。
「君が本を読んでいるということを知っていれば、私はあんな阿呆な連中と論を交わしに態々出掛けることなどせずに済んだ。知っていれば、いつもの様に此の家に来て君と論議をすれば良かったんだ。本当に、今までの時間が惜しい」
「断る」
火鉢で炭がぱちんと、はぢけた。
「それはどういう意味だい」
私は語気を少し荒くした。
「俺は本についての論を他人と交わすのは好かない。だから、お前と此処でそのような論議をするのは断ると言っているんだ」
「少しぐらい良いじゃないか」
「却下だ」
「どうしてそんな下らない意地をはるんだ。どうせ君にとっちゃ、いつもの無駄話がまた別の無駄話になるだけじゃないか」
彼は少しの間、黙ってから呟くように言った。
「お前は、俺が、お前との話を無駄話だと思っている、と考えていたのか」
外の霙はいつの間にか強い雨音を連れて来ていた。
「心外だな」
こんなにも近くにいるというのに、火鉢の温かさは微塵も感じられなかった。
「どれ、心外ついでに茶でも淹れてやるから少し頭を冷やせ」
そう言って彼は私と自身の茶碗を持って立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。
襖の向こうから「私がやりますから」とか「いい、お前は休んでろ」とか言う声が聞こえる。
彼の内儀は身重だ。今日、此の家に赴いたときには大きな腹を抱えて苦しそうにしながらも案内をしてくれた。きっと一月しないうちに生まれるのだろう。彼は愛妻家で、最近は妻の身体を慮って土間にさえ立っているという。
「はあ」
ため息が火鉢の中に転がり出でた。
「ごめんなさいね」
襖越しに彼の内儀の声。
「いや、いいんです、私が悪いんですから」
そう私が言えば、「ふふふ」と笑う、彼の内儀という人は彼とは真逆で、実に柔和な人だ。堅物で矜持心の塊である彼を全て包括するようにして、その百合子という人はこの家に佇んでいる。
「本当に、似ているわ」
「はあ」
「あの人と滝口さん、そっくり」
凛とした声は、大きな雨音の上をすう、と通って、響く。
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