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今日一日、ずっと家にひきこもっていたので、なんにも書くことが無いです。
なので、中3の頃に書いた小説(ほんの少しだけ修正加えました)を、この記事のつづきにさらしときます。
長編ものの、いちばんはじめのプロローグです。続きは、たぶん、ありません。出てきてないし、書いた記憶も無いし。これから新しく書くのも楽しそうだけれど、需要ないだろうからなぁ。
あと、季節はずれなのも許してください……。
きみは夏が似合う子だね。
橙色に染まるその人。
彼の左手はわたしの頭を撫でていて、彼は太陽を背負っていて、わたしはまぶしくて目をほそめていて、そして、彼をみあげていた。
うん。だってあんずは夏になるんだよ。
彼の顔には濃い影がかかっていた。
それでもわたしは彼が笑っているとわかっていた。
01.きのうときょうとあしたの狭間、イコール、夏
私には特技がある。
それは、すぐに涙を流せる、ということ。
「なにか忘れちゃったことを思い出そうとすれば良いんだよ。そしたら、すぐにポロポロっと出るから」
私がそう言えば、
「んな、無茶な」
黒須は上体を揺らしながら笑った。
ものを言うとき、黒須は上体を揺らす癖がある。昔から。
「でも、あれだよな、部活的にはそれってかなり有利だよな?」
あと、馬鹿っぽい喋り方。これも昔から変わらない癖。ま、私も人のこと言えませんけどね、あはははー。
「うん、まあそうなんだけどねー、でも、それって役になりきって泣いてるワケじゃないじゃん?それってなんかチガくない?」
私は演劇部に入ってる。予備校の友達とかに言うと、マニアックだとかなんとか言われるけど、入ってみるとこれがメチャクチャに楽しい。ほんと、高校で演劇っていうものにめぐり合えて良かった。
「ふーん、まー、俺には良くわかんないケド」
ズゴ、ズゴ、ズゴゴ。
黒須が、空っぽのグラスにささってるストローを吸えば、変なものを詰まらせたミニ掃除機みたいな音がした。
「きたない。やめてよそれ」
「お前こそやめろよ」
黒須の上半身が激しく揺れた。
「その鶏の骨、いつまでしゃぶってんだよ」
「だって、ナンコツが全然とれないんだもーん」
「ナンコツなんか食うの?あいかわらず、貧乏性だなーお前」
「氷の溶けた水、吸ってるような人がそんなことよく言えますねー」
「うるせーよ!これこそ高校生のファミレスの名物じゃんか!」
「あーそうですかーそうなんですかーそれは知らなかったなー。すいませんねーワタクシったらカブンなものでねー」
「お前なあ!」
ガタガタッ。
「きゃーこわーい」
「………」
「………」
「………」
「………」
ガタン。
「………なんか他に食う?」
「ん、いらない。お金無いし」
「そっか」
「黒須は?」
「いらねー」
「んー、じゃあ、帰ろっか」
「おう」
紙ナプキンに、鶏の骨。
外に出ると、もう7時だっていうのにまだ明るかった。
夏だ。
夏なのだ。
「あれ……?」
ふと気付くと、ほっぺたに涙が伝っていた。
なんでなんだろう、何も思い出そうとしてないのに。
勝手に、涙が出た。
「おっかしいなあ……」
こんなこと、今ままで無かったのに。
「なに?お前、まだ自分の特技、自慢したいの?」
チャリチャリチャリチャリ。
黒須が自転車を押す音。
「別にそんなんじゃないし」
「じゃあなんでお前、泣いてんだよ」
チャリチャリチャリチャリチャリ。
「泣いてない!」
「泣いてんじゃん」
「泣いてないってば!ただ、涙が勝手に出てきただけ!」
チャリ、
黒須が立ち止まる。
「なあ、それってどういうこと?涙が出るって、泣くってことじゃねえの?」
私も立ち止まる。
彼の背後で、日が落ちる。
ジュウゥ、と遠くのビルが焦げそうな、赤色に燃える太陽。
黒須の顔は影になって見えない。
――心が、泣いてるってことじゃねえの?
夜が来た。
馬鹿みたいに蒸し暑い、夏の夜がやってきた。
ドクン、
聞こえたのは、命の音。