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07.20
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06.10   comment (0)
ようやくupです。
お待たせしただけとても良い出来栄えになっております、とはとても言えません。
それでも読んで頂けるのであれば、この記事の続きからどうぞ。




百合子と言う女は白い女だった。

蕎麦を手繰る初対面の女を横目で見ながら、私は天麩羅を齧った。さくり、と音がする。
場所は、緑り屋の二階、奥まった座敷である。彼と彼女は遅い昼食を摂って居た。その横で、昼食を既に済ませて居た私は天麩羅をアテにして熱燗をちびちびと飲む。
「旨いかい」
なんとも所在の無い私は、隣に座る彼にそう訊ねたが、返ってきたのはずるずるという蕎麦を手繰る音だった。私は仕方なしに酒を飲んだ。
鼻に抜ける酒気。それを感じながら、何か彼の注意を引くような話題は無いだろうかと私は自分の記憶を探った。
時々、横から箸がのびてきて、私の海老や獅子唐を攫っていく。

直ぐに話題は見つかった。近々行われる総選挙や軍部の話だ。
私がその話をふれば、彼は見事にそれに食い付いた。「日本は軍事国家になるだろう」とか「もうどうしようもない」とか突飛な自論を展開する彼は、私が護憲派の名前をいくら出そうとも聞く耳も持たなかった。しかし、彼の奇抜な言説は確かに納得させられる部分もあるのだから、何時も私は自らの意見を取り収めざるを得なくなる。
私達の思考は五十年先に迄及んで、日本国を見渡した。
そうした政治的な話をしている私達がして居る間、女はついて行けず、ずっと黙った侭である。
私は少し、得意になった。

蕎麦を食い終わった二人が蕎麦湯を飲む。私も残った酒を飲み干した。
「お酒」
彼女が口を開いた。私に話しかけた様だ。
「来年にはお付き合いします」
「あ、はあ」
私は曖昧な応えを返した。彼女が手を当てた腹に視線を落とす。未だ膨れていなかった。
それにしても矢張り、この女は酒を呑むのか。彼の方は殆ど下戸だと云うのに。
蕎麦湯を無表情で飲む彼を見る。此の男が所帯を持つなど不可能に違いない。私は大層心配に思った。
「ふふふ」
彼女が突然声を出して笑った。
「如何したのですか」
私は合点がゆかず、そう問うた。すると彼女は笑うのを止め、「だって」と言う。
伏しがちな彼女の瞳が、上を向き、目があった。
「滝口さんが素敵な方だから」
私は面食らった。
ふ、と彼が横で笑うのが分かった。女もまた、ふふふ、と笑い始める。私は酷く不快な気分になった。
「何故笑うんだい」と私が訊けば、彼は「さあな」と答えて、立ち上がった。彼女が直ぐ様其れに続いて立つ。私は、少し、遅れた。頭がくらくらとするのは酔ったせいだろうか。
「百合子」
彼が彼女の名を呼ぶ。
「はい」
「お前は先に帰って居ろ。俺はその男と少し散歩をして来る」
「はい。お気をつけて」
「ああ。夕餉は何か店屋物で良いだろう」
「はい」
そのようなやり取りを聞き乍ら、「ああ、これで漸く二人きりになれる」と私はぼんやりと思った。
ズボンの裾から、解れた糸が一本、飛び出して居た。


 


【つぶやき】
「直ぐに話題は見つかっ~私は少し、得意になった。」の部分、最初はこれの五倍ぐらいの長さで延々当時の政治やら何やらについて二人が語ってました^^^^
でも本編に本質的に関わってくるとこじゃあ無いし、何より私の無知さがあまりにも露呈する内容となっていたため、大幅にカットしてこのようになりました。
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