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ルピシアの「ナツコイ」と「あんず」と「シークワサー烏龍」が好きですmadoraです。
要は、柑橘系のフレーバーティーが好きですmadoraです。
続きで唐突に紅花シリーズの習作が始まります。ごっつ短いです。唐突に終わります。
「さっき利根川さんに聞いたのだけれど、祭りがあるそうだね」
私は熱いほうじ茶を啜り、そう言った。
「ああそうだな」
彼は何やら茶葉の調合をしようとして居る様だ。白い陶器の中に、さらさらと濃緑の粉が入れられる。
「行かないのかい」
彼は私の問いに答えを返さず、無言の侭、立ち上がった。戸棚からまた二つ、茶葉を取り出す。
私は手持無沙汰になって、ほうじ茶を飲んだ。
彼が新たに取り出して来たそれらをちらりと見遣れば、一つは普通の茶葉であったが、もう一つは乾燥した柑橘類の皮であった。
「君は祭りが好きじゃないか」
彼が、所帯を持つ前、よく一人でふらふらと祭りに行っていたのを思い出す。
普通の茶葉の方が、濃緑の粉の上にぱらぱらと落とされる。
「お前と行ったって、何も楽しく無いだろうが」
彼はそう言いながら橙色の皮を粗く砕き始めた。
「だから、百合子さんと行ったらどうだい」
私は如何にも我慢出来ずに核心を言った。
「百合子は、行きたい、など言わない」
「思ってはいると思うよ」
それでも彼は動こうとしない。橙色を砕くばかりである。
蝉が鳴き、表の通りを子供達が駆けて行く。
「蕪木」
私は溜息混じりに彼の名を呼んだ。
「なんだ」
橙色がようやく陶器の中へと落とされる。鮮やかだった。
「行っておいで」
ちりん、と軒先の風鈴が鳴った。
彼は深い、深い、溜息を吐き、そして、笑った。
「お前にそんなことを言われるとはな」
出掛ける際、彼は調合し終えたばかりの茶を私に淹れて行った。
甘い、杏の匂いのする、美味いお茶だった。